最終更新日: 2023年08月25日
YOICHI 余市蒸溜所
NHK朝の連続テレビ小説「マッサン」の舞台にもなった余市蒸溜所は、大日本果汁株式会社(当時)を興した竹鶴政孝によって1934年に創設。北海道・積丹半島の付け根に位置する余市町は年間の平均気温が約8℃とスコットランドの気候に近く、「ウイスキーは北の大地で造るもの」との信念を持っていた竹鶴にとって、まさに理想の地であった。蒸留所にポットスチルが導入され、ウイスキー造りが開始されたのが1936年。最初の「ニッカウヰスキー」が売りに出されたのは4年後の1940年のことだった。なお竹鶴はスコットランドでの留学時代、実習先のロングモーンやヘーゼルバーン蒸留所で学んだ「石炭直火蒸留」を余市にも採用し、この伝統は現在も守り抜かれている。
余市蒸溜所の敷地面積はおよそ15万平方メートル。三方を緑豊かな山々に囲まれた冷涼な湿地帯に余市川が流れ、その伏流水を仕込みに使う。発酵槽はステンレス製10基、蒸留器は初留釜4基と再留釜2基(いずれもストレート型)が稼働し、なかでも前述した初留釜の石炭直火焚きは世界でもほとんど例を見ないものになっている。石炭直火は火力を一定に保つのが難しく熟練の技が求められる一方、これにより余市独特の力強く香ばしいモルトウイスキーが生まれるという。熟成庫はダンネージ式(一部ラック式)で、現在27棟。また2020年10月には、ウイスキーの蒸留廃液を利用したバイオガス発電施設も新設している。
敷地内には創業時の建造物が今も多く残り、事務所棟、第一・第二乾燥棟(キルン塔)、蒸溜棟、第一・第二貯蔵庫など計10棟が、国の登録有形文化財に認定されている。観光スポットとしても人気が高く、新型コロナウイルス感染拡大前は年間50万人を超える観光客が訪れた。見学ツアーは現在完全予約制となっている。
所在地 | 北海道余市郡余市町黒川町7-6 |
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所有者(オーナー企業) | ニッカウヰスキー(アサヒグループホールディングス) |
創業年(会社設立年) | 1934年(大日本果汁) |
ウイスキー蒸留開始年 | 1936年 |
仕込水 | 余市川の伏流水(軟水) |
麦芽のフェノール値 | ノンピート、ライトピート4~15ppm/ヘビリーピート20~50ppm |
モルティング | 無 |
モルトミル | ローラーミル(スイス・ビューラー製)×1基 |
ワンバッチ麦芽仕込量(マッシュレイシオ)/仕込回数 | 6トン |
年間生産能力(LPAまたはリットル[平均アルコール度数]) | 200万リットル |
糖化槽(マッシュタン)・濾過器/数/容量(張込量) | ステンレス・セミロイタータン(三宅製作所製)/5万リットル/糖化約1時間 |
麦汁量/麦汁糖度 | 2万5,000リットル |
イースト菌/添加量 | ウイスキー酵母数種 |
発酵槽(ウォッシュバック)/数/容量(張込量)/発酵時間/モロミ度数 | ステンレス(大和ステンレス工業製)×10基(内訳:4万リットル×1基、2万4,000~2万8,000リットル×9基) |
初留器タイプ/数/容量(張込量) | ストレート型(三宅製作所製)×4基/7,700リットル(7,000リットル)×2基、1万1,000リットル(1万リットル)×2基 |
加熱方式:初留/時間 | 石炭直火/5~6時間 |
冷却装置:初留 | ワームタブ |
再留器タイプ/数/容量(張込量) | ストレート型(三宅製作所製)×2基/1万1,000リットル(1万リットル)×1基、1万4,000リットル(1万3,000リットル)×1基 |
加熱方式:再留/時間/ミドルカット(度数) | スチームコイル/約12時間 |
冷却装置:再留 | ワームタブ |
樽詰度数 | 63~65% |
ウェアハウス/貯蔵タイプ | ダンネージ式、一部ラック式×27棟 |
ボトリング設備 | 無 |
ビジターセンター/見学 | 有/可(要予約) |
製品 | ウイスキー |
特記事項 |
敷地面積13万2,000平方メートル、標高約2m。旧竹鶴邸、製樽工場有。蒸留所の10棟の建築物が2022年に国の重要文化財に指定されている。ボトリングはニッカウヰスキー柏工場で行う。 2020年、蒸留廃液からのバイオガス発電施設を新設。 |
1934(昭和9) | 竹鶴政孝、大日本果汁(現ニッカウヰスキー)を創業、北海道余市に北海道工場(余市蒸溜所)を建設。 |
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1935(昭和10) | りんごを搾汁した「ニッカ林檎汁」を製造販売。 |
1936(昭和11) | 酒造免許を取得。ウイスキーの蒸留を始める。 |
1938(昭和13) | 甘味林檎酒「ニッカアップルワイン」発売。 |
1940(昭和15) | 第1号「(レア・オールド)ニッカウイスキー」と「ニッカブランデー」発売。ポットスチルを2基に増設。 |
1941(昭和16) | 帝国海軍指定工場として丸ビン「レイグラウンド」を納入する。このころ「ニッカ沼」と呼ばれた余市川の中の島に貯蔵庫を建設。級別制度が導入されニッカウウイスキーは特級に選ばれる。余市町に製作を依頼されたジャンプ台、「桜丘シェンツェ(のちの竹鶴シャンツェ)」台開き。 |
1945(昭和20) | 「ニッカウイスキー丸びん」発売。 |
1950(昭和25) | 初の3級ウイスキー「スペシャルブレンドウイスキー」発売。ジンの製造免許取得。 |
1951(昭和26) | 「スペシャルブレンドウイスキー『新角』(角瓶)」、「ウイスキー丸びん」発売。 |
1952(昭和27) | ニッカウヰスキーに社名変更。瓶詰め工場として東京工場(現在の六本木ヒルズ、毛利庭園)を設置。 |
1954(昭和29) | 朝日麦酒(現アサヒビール)が株主となり、ニッカと業務提携を行う。 |
1955(昭和30) | 「ゴールドニッカ」発売。 |
1956(昭和30) | 「丸びんウイスキー」(通称丸びんニッキー)」発売で初TVコマーシャルを放映、ニッカが全国区の知名度を得る。「ブラックニッカ(黒角)」、ニッカ「ドライジン」発売。 |
1957(昭和32) | 「ニッカベヤー」発売。このころ南極探検隊にアルコール度数70%の特製ウイスキーを製造。 |
1959(昭和34) | 洋酒の出荷量がオーシヤンを抜いて業界第2位になる。朝日酒造、西宮工場を完成(のちにニッカが所有)。 |
1960(昭和35) | 弘前工場を建設、アップルブランデーなどを製造。「ホワイトベヤー」、「グランドニッカ(2級)」発売。 |
1961(昭和36) | 米国ヒューブライン社と技術提携、「スミノフウオッカ」の製造販売を始める。 |
1962(昭和37) | 「スーパーニッカ」「エキストラニッカ」発売。 |
1963(昭和38) | “カフェ式連続式蒸溜機”を朝日酒造の西宮工場に導入、翌年から本格稼働。「ギルビージン」「ギルビーウオッカ」の製造販売を始める。「角びんニッカ(黒角)」発売。 |
1964(昭和39) | 「ハイニッカ」、夏季五輪東京大会記念(五色の手吹きボトル)「スーパーニッカ」発売。 |
1965(昭和40) | カフェグレーンをブレンドした「新ブラックニッカ」発売。佐賀県鳥栖市に九州工場(ブレンド、貯蔵庫)を建設(~1992年)。 |
1967(昭和42) | カフェ式連続式蒸溜機の2基目を西宮工場に導入。千葉県柏市に新東京工場(現柏工場)を完成、東京工場は麻布工場に名称変更(~1974年)。カフェグレーンの生産能力が2倍半に増加。 |
1969(昭和44) | 仙台工場(宮城峡蒸溜所)を建設。ニッカ、朝日酒造を合併。 |
1970(昭和45) | 新「スーパーニッカ」、「グランドニッカ(特級を)」発売。 |
1972(昭和47) | 余市、宮城峡、(西宮)、カフェグレーンの3つをブレンドした新商品「ノースランド丸びん」発売。 |
1973(昭和48) | 「ノースランド角びん」発売。 |
1974(昭和49) | 「スペシャルエイジ」「キングスランド」発売。 |
1975(昭和50) | 「G&G黒びん」「黒の50」発売。 |
1976(昭和51) | 仙台工場第二期工事完成。原酒の生産能力が2.5倍となる。「鶴」発売。「ハイニッカ」ビッグボトルを発売。 |
1977(昭和52) | 栃木カフェ・グレーン・プラント(現・栃木工場)が完成。 |
1978(昭和53) | 「黒角ニッカ」「ハイニッカ・デラックス」「キングスランド角びん」発売。 |
1980(昭和55) | 「フォーチュン'80」発売。旧事務所、余市町指定文化財に指定される。 |
1982(昭和57) | 「ピュアモルトウイスキー北海道12年」発売。 |
1983(昭和58) | 「スーパーニッカ」が年間販売量100万ケース、年間販売額1000億円を突破。 |
1984(昭和59) | 創立50年記念「メモリアル50」「シングルモルト北海道12年」「ピュアモルト(レッド)(ブラック)」「yz」発売。 |
1985(昭和60) | 「フロム・ザ・バレル」発売。 |
1986(昭和61) | 「ニューブレンドハイニッカ」「ザ・ブレンド・オブ・ニッカ」「同17年」発売。 |
1987(昭和62) | 北海道工場(余市蒸溜所)で「マイウイスキーづくり」開始。「ピュアモルト(ホワイト)」発売。 |
1989(平成1) | ニッカ、スコットランド、ベンネヴィス蒸留所の経営権を取得。大分県日田市に(新)九州工場を竣工。「ピュアモルト北原酒15年」「シングルモルト余市10年」「同12年」「ザ・ブレンド・オブ・ニッカ・セレクション」「スーパーセッション」「ゴールドニッキー」「ホワイトニッキー」「グランドエイジ」「ニッカウヰスキー九州日田工場」発売。 |
1990(平成2) | 「オールモルト」発売。 |
1991(平成3) | 「カフェグレーン」「シェリー樽熟成ピュアモルト」発売。 |
1993(平成5) | 水割り缶ウイスキー「スーパーニッカ&ウォーター」発売。 |
1995(平成7) | 「モルトクラブ」「スーパーニッカ原酒」「ウヰルキンソン(ジン・ウオッカ)」発売。 |
1996(平成8) | 「シングルモルト余市10年(角びん)」「AT Aging Triple」発売。 |
1997(平成9) | 西宮工場の土地をアサヒビールに売却。 |
1998(平成10) | 北海道工場にウイスキー博物館が開館。「ニッカ34年」発売。 |
1999(平成11) | カフェ式連続式蒸溜機を西宮工場から仙台工場へ移設。「シングルカスク余市10年」「同12年」「同15年」「同20年」発売。 |
2000(平成12) | 「ニッカ竹鶴35年」発売(以降毎年限定で発売)、「竹鶴12年ピュアモルト」発売。 |
2001(平成13) | アサヒビールと営業統合し、ニッカは完全子会社となる。ニッカウヰスキー北海道工場を余市蒸溜に名称変更。「シングルカスクシリーズ」「竹鶴17年ピュアモルト」「竹鶴21年ピュアモルト」発売。「シングルカスク余市10年」が英国ウイスキー・マガジン誌でベスト・オブ・ザ・ベスト最高得点。 |
2002(平成14) |
余市で「十年浪漫倶楽部余市」開始。「シングルカスク余市1989シェリー&スウィート」「同ピーティ&ソルティ」「同フルーティ&リッチ」「シングルカスク余市20年アニヴァーサリー・セレクション」「ブラックニッカ8年」発売。 英国のザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ(SMWS)が余市蒸溜所をモルトウイスキー蒸留所に登録(116番)。 |
2003(平成15) | 直火焚き排出ガスの大気汚染防止の処理設備を配置。 |
2004(平成16) | 余市蒸溜所が北海道文化遺産に登録される。70周年記念日に本社ビル地下に『ニッカ ブレンダーズ・バー』を開設。記念ウイスキーとして「ザ・ニッカウヰスキーピュアモルト35年」「ジ・アニバーサリー12年」「シングルモルト余市1984」「ニッカ70th アニバーサリーセレクション」発売。 |
2005(平成17) | 「ニュー・オールモルト」「ニュー・モルトクラブ」「シングルモルト余市1985」を発売。事務所棟、蒸溜棟、第一貯蔵庫など9建造物が登録有形文化財の指定される。 |
2006(平成18) | 「シングルモルト余市500ml」「シングルモルト余市1986」発売。 |
2007(平成19) | 「シングルモルト余市1987」発売。生産を3交代制から1交替に切り替え減産に対応。 |
2008(平成20) | 「シングルモルト余市1988」「ニッカシングルモルト・ヴィンテージモルト・シリーズ余市」「ニッカ シングルモルト余市1987ノンチルフィルタード」発売。 |
2009(平成21) | 「スーパーニッカ」全面リニューアル、「シングルモルト余市1989」発売。 |
2010(平成22) | 「ブラックニッカ・クリアハイボール」「竹鶴ピュアモルトハイボール」「シングルモルト余市1990」発売。 |
2011(平成23) | さつま司酒造、ニッカの子会社となる。 |
2012(平成24) | 「竹鶴25年」「竹鶴17年ピュアモルト ノンチルフィルタード」発売。 |
2013(平成25) | 「竹鶴ピュアモルト」「同シェリーウッドフィニッシュ」「ブラックニッカ リッチブレンド」発売。 |
2014(平成26) | 竹鶴政孝、リタ夫妻をモデルとするNHK連続テレビ小説「マッサン」放映。「ザ・ニッカ12年」「ザ・ニッカ40年」「竹鶴21年ピュアモルト ポートウッドフィニッシュ」「同マディラウッドフィニッシュ」「同ノンチルフィルタード」「竹鶴ハイボール」発売。 |
2015(平成27) | 「ブラックニッカ ディープブレンド」「初号ブラックニッカ復刻版」「初号ハイニッカ復刻版」「初号スーパーニッカ復刻版」「シングルモルト余市」「同 ヘビリーピーテッド」(ノンエイジ)発売。 |
2015(平成27) | 蒸留所見学者が余市と宮城峡合わせて初めて年間100万人を超える。 |
2016(平成28) | 「ブラックニッカ ブレンダーズスピリット」発売。 |
2017(平成29) | 「カフェジン」「カフェウオッカ」「ブラックニッカ アロマティック」「シングルモルト余市モスカテルウッドフィニッシュ」「同ラムウッドフィニッシュ(欧米市場向け)」発売。 |
2018(平成30) | 「シングルモルト余市マンサニーリャウッドフィニッシュ」「ブラックニッカ ディープブレンド エクストラスイート」発売。 |
2019(令和元) | 「ザ・ニッカ」(ノンエイジ)、「シングルモルト余市2019リミテッドエディション」発売。 |
2020(令和2) | 蒸留廃液からのバイオガス発電施設を新設。昼夜2交代制の増産体制に移行。ワールドブレンデッドモルト「セッション」、「シングルモルト余市 アップルブランデーウッドフィニッシュ」発売。 |
2021(令和3) | NIKKA DISCOVERYシリーズ第1弾「シングルモルト余市ノンピーテッド」発売。10月、見学施設「ニッカミュージアム」を23年ぶりにリニューアル。事務所棟、乾燥棟、蒸溜棟、貯蔵庫など10の建造物が国の重要文化財に指定される。 |
2022(令和4) | 高層ラック式の新貯蔵庫1棟(約7,000樽収容可能)が稼働開始。「シングルモルト余市グランデ」、熟成年数表記のあるエイジング製品としては7年ぶりとなる「シングルモルト余市10年」発売。登記上の本店を(70年ぶりに)創業の地の後志管内余市町に移転。NIKKA DISCOVERYシリーズ第2弾「シングルモルト余市アロマティックイースト」発売。 |
2023(令和5) | ニッカミュージアムの第2期工事を完了し、リニューアルオープン。蒸留所内のレストランを改装した「RITA's KITCHEN」を開設。国内メーカー5社が協力した「ウイスキー100年プロジェクト-Fellow Distillers-」ワールドブレンデッドウイスキーを発表。 |
2024(令和6) | ニッカウヰスキー創業90周年記念でニッカ関連蒸留所の原酒を使ったブレンデッドウイスキー「ザ・ニッカ ナインディケイズ」を限定発売。 |
更新履歴: | 2021年9月10日/9月18日/10月27日/2022年7月14日/7月22日/8月21日/2023年3月9日/5月19日/8月25日 |
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