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数字で見るジャパニーズウイスキーの現在(いま)
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2022-05-17
文/土屋 守
数字で見るジャパニーズウイスキーの現在(いま)
ジャパニーズウイスキーの快進撃が止まらない。それは輸出金額の推移を見ても、よく分かる。表1は2000年からの輸出金額を、ウイスキー、清酒、焼酎、ビールとリストにしたものである。これを見るとジャパニーズウイスキーが低迷していた2004年、05年はその金額が9億5,000万円、9億1,000万円と、10億にも満たなかったことが分かる。対して清酒は04年が45億3,000万、05年が53億4,000万とウイスキーの5〜6倍。焼酎も13〜16億円と10億の大台を超えているし、ビールも21〜19億円とウイスキーのそれを大きく上回っている。それが10年後の2015年には、ウイスキーの輸出金額が103億8,000万円と10倍以上に膨れ上がり、ビールや焼酎を抜いて、清酒の140億円に迫る勢いを見せていた。そして2020年である——。
酒類業界やマスコミがジャパニーズウイスキーの輸出拡大に注目し始めたのが2019年頃からで、ジャパニーズウイスキーに相次いでクラフトディスティラリーが誕生した頃でもある。同時に国内出荷量も対前年比2桁台の伸びをキープし、テレビや新聞、雑誌などでジャパニーズウイスキーを取り上げるケースが格段に増えていった。もちろんジャパニーズウイスキーの人気は国内だけでなく海外にも広がり、輸出量が急激に増えている。ウイスキーの輸出金額が清酒を抜いて1位に躍り出たのが2020年で、ついに年間の輸出金額は270億円の大台に乗った。これは対前年比39%の増加で、2006年以来、16年連続で前年のそれを上回っているのだ。
2020年は新型コロナウイルスの感染が拡大し、丸々1年、日本も世界もコロナに翻弄された年だった。そんな中にあってもウイスキーの輸出は伸び続け、2019年より80億円近く多い271億を記録した。長年1位の座に君臨してきた清酒は241億円で、焼酎はピーク時(2007年の19億円)の6割程度の12億円まで落ち込んでしまった。これはウイスキーの23分の1である。
このジャパニーズウイスキーの快進撃は2021年になっても続いている。コロナの影響は2020年よりも大きくなっているはずだが、そんなこととは無縁のようにも見える。この稿を書いている段階(12月中旬)では、1月から10月までの数字しか出ていないが、それでもその累計が400億円を超え(406億円)、このまま推移すれば年間の輸出金額が、460〜480億円に達する見込みとなっている。対前年比でも60%近い伸びを示すものと思われ、ジャパニーズウイスキーの海外での人気は当分衰えそうもない様子なのだ。
質・量ともに断トツの中国マーケット
ではジャパニーズウイスキーの輸出先はどこなのだろう。表2は金額が多い国を1位から5位までリストにしたもので、2011年から2021年までの11年間をまとめている(2021年は1〜10月まで)。これを見ると1位はフランスからアメリカ、そして中国へと推移したことが分かる。特に2020年以降、中国がアメリカに取って代わっているが、その金額は約79億円で、全体271億円のうち、実に3分の1強を占めているのだ。2021年の数字も1月から10月までですでに145億円を超えていて、中国単独で200億円に迫る勢いである。このところ5年連続で5位となっているシンガポールも、中国への「窓口」と考えれば、中国がジャパニーズウイスキーのマーケットとして、いかに巨大かが分かるというものだ。
これは金額ベースだが、表3は、それを数量ベースで見たものである。これを見ると数量ではアメリカ、フランス、中国、台湾、オランダとなっている(2020年)。金額ベースで1位の中国が数量ベースで第3位ということは、いかに中国が高いジャパニーズウイスキーを買っているかということで、新興国が飲んでいるのは安いブレンデッド、先進国は高いシングルモルトという図式が、ことジャパニーズと、その第1のマーケットである中国では当てはまらないことを物語っている。中国人は今、日本のシングルモルトを中心に、高級ウイスキーを数多く飲んでいるということなのだろう。
ちなみに1位のアメリカは数量ベースでは244万リットル。これは中国の136万リットルを大きく引き離している。これを40%、700ミリリットルのボトルに換算すると、アメリカが約349万本、中国が194万本となる。ケースでいえば、それぞれ29万ケース、16万ケースで、人口で考えればまだまだその量は微々たるものだと言わざるを得ない。つまり市場のポテンシャルは測り知れないものがあるということだ。
さて、ここまでジャパニーズウイスキーや清酒、焼酎、ビールの輸出金額の推移を見てきた。2015年にジャパニーズウイスキーは100億円の大台に乗り、それが今では500億円に到達しそうな勢いであることは前述した。わずか5〜6年で5倍近くに増えている。日本産の農林水産物の輸出は近年急激に増加していて、昨年はついに1兆円を超えたが、そのうちの実に20分の1をウイスキーが占めているのだ。特に中国マーケットの伸長が著しい。
今はコロナでウイスキーフェスなどのイベントは開けないが、2016年くらいから、フェスやウイスキー文化研究所が主催する国内蒸留所ツアーなどで、中国人の参加が増えていった。そのため、中国人グループのための特別ツアーを組んだこともある。あまりに熱心なので、「あなたたちで中国にクラフト蒸留所をつくったらいいのに」と、言ったことがある。その一行は広州から来ていたので、広東省でも、隣の福建省、さらには四川省でも、自然環境が豊かなところはいくらでもあると言ったら、「中国人は中国人が造ったものを、あまり信用していません」と、言われてしまった。中国人の〝メイド・イン・ジャパン〞に寄せる信頼を、改めて感じた瞬間でもあった。
国民一人あたり5本のウイスキーを消費
ここまではジャパニーズウイスキーの海外市場に関する話だったが、それでは国内市場はどうなっているのだろうか。日本のウイスキー課税数量(出荷量)が過去最大だったのが1983年で、この年(年度)の出荷量は約36万キロリットルとなっている(表4)。つまり1983年4月から翌84 年3月までの一年間で、約3億6,000万リットルのウイスキーが出荷されたことになる。これは国税庁が所管する国内統計で、海外からの輸入分は税関扱いとなり含まれていない。それを3〜5%と見積もると38万キロリットルとなり、これが巷間いわれてきたピーク時の数字である。ただし、これにはブランデー分も含まれているので(ブランデーがウイスキーと分けられたのは2006年度から)、概算で35万キロリットルくらいということになるだろうか。
一般的に海外では、この手の数値は100%アルコールに換算した数値が用いられるが、日本の数字は、ほぼアルコール分40%のボトル換算。つまり35万キロリットル、3億5,000万リットルは、アルコール分40%、容量700ミリリットルのボトルにして、年間約5億本が出荷されたことを意味している。当時の日本の人口は約1億人だから、国民一人当たり、年間5本のウイスキーを飲んでいた計算になるのだ。これで思い出すのが、日本のサントリー「オールド」が1980年に、年間1,240万ケースを出荷したという事実である。1ケースは12本だから、年間1億4,880万本のオールドが出荷されたことになる。つまり、当時日本で飲まれていたウイスキーの3本のうちの1本がオールドということになるのだ。
そのウイスキー出荷量は1983年度をピークに、その後は低迷が続き、2007年度に5万9,000キロリットル、すなわち5,900万リットルまで落ち込んでしまった。1983年の6分の1の数字である。しかし、その後は再び上昇に転じ、2008年以降は一度2011年に前年を下回ったものの、出荷量は順調に増え続けている。さすがに2020年度(速報値)は13万キロリットルと対前年比20%のマイナスだったが、これはコロナ禍が国内出荷量を直撃したからだろう。その分、輸出量が伸び続けていることは、前述したとおりである。
コロナは昨年11月頃に収束したかに見えたが、再び変異株のオミクロン株に、全世界は対応を迫られている。この先どうなるかは不透明だが、ジャパニーズウイスキー、それもクラフトウイスキーの快進撃はこれからも当分続くと考えている。
【初出: ウイスキーガロア Vol.30(FEBRUARY/2022) 】
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